3970 イノベーションの業績について考察してみた

3970 イノベーションの業績について考察してみた

PERAGARU管理人

イノベーションの事業概要

同社は2000年に法人営業を効率化する事業の運営を目的として設立された比較的新しい会社である。2002年には法人向け発信業務に特化したテレマーケティング代行サービスや、リスティング広告代行サービスを開始し、2007年には同社の事業の中核サイトとなる「ITトレンド」、2008年には「BIZトレンド」のサービスを開始しており、2016年には東京証券取引所マザーズに株式を上場して現在に至っている。なお、同社を設立した富田直人氏は、同社の設立前はリクルート社(現リクルートホールディングス<6098>)にて営業を行っていた人物であり、イノベーションの現代表取締役である。同氏は、後述の増資前において同社の株式を45.8%保有する筆頭株主であり、同氏が代表を勤める株式会社NTIが保有する10.0%を合わせると、同社の議決権の過半以上が同氏のコントロール下にあった。増資後においても多くの議決権を保有している状況に変わりはない。
同社の報告セメントは、「オンラインメディア事業」と「ITソリューション事業」の2つを報告セグメントとしている。「オンラインメディア事業」は勤怠管理システムや会計システム等の法人向けIT製品の比較・資料請求サイトである「ITトレンド」や、法人向けアウトソーシングサービスの比較・資料請求サイトである「BIZトレンド」の運営が中心となっており、「オンラインメディア事業」が同社の売上の約80%を占める主力事業である。「ITソリューション事業」においては、従来「セールスクラウド事業」としており、法人営業に特化したマーケティングオートメーションツールである「List Finder」の提供およびそれを通じたコンサルティングサービスを行っていたが、ウェブセミナーサービスを行う「コクリポ」事業を同セグメントに含め、「ITソリューション事業」としている。
同社の連結子会社は、株式会社Innovation & Co.と株式会社コクリポの2社である。株式会社Innovation & Co.は2019年に簡易新設分割により、同社から「オンラインメディア事業」と「セールスクラウド事業(現ITソリューション事業)」を移管して設立された同社グループの中核となる子会社である。また、株式会社コクリポは2019年に取得した会社をベースに組織再編した会社であり、ウェブ上でセミナーを開催するためのウェビナーサービスの運営事業を提供している会社である。なお、親会社である株式会社イノベーションは会社分割後はシステムインテグレーション及びシステムエンジニアリングサービスの提供、新規事業への投資・開発及び運営、グループ会社の経営サポートを行っており、子会社の管理業務を受託する形をとっている。

オンラインメディア事業

同社のオンラインメディア事業の中核は「ITトレンド」と「BIZトレンド」である。「ITトレンド」は、企業のシステム導入検討会社が、IT製品の比較・検討を行い、資料請求やお問い合わせができるWebサイトとなっており、「BIZトレンド」は企業の人事・総務の担当者が各種サービスの比較・検討を行い、資料請求やお問い合わせができるWebサイトとなっている。いずれも、BtoBに特化したメディアであり、企業のバックオフィスに向けたサービスとなっている。
同社において運営する「ITトレンド」と「BIZトレンド」における収入は、主に同サイトに製品およびサービスを掲載する掲載企業から受領し、資料請求による見込み顧客情報入手1件ごとに発生する成果報酬であるため、サイトに掲載する製品がの増加とサイトへの来訪者数の増加が同社の売上増加につながることになる。
「ITトレンド」は、2020年3月末時点において236サービスカテゴリー、441社、1399製品の掲載があり、「BIZトレンド」は、45サービスカテゴリー、104社、213サービスの掲載があり、2019年3月期における各サイトへの来訪者数は延べ4,919,335人であったが、2020年3月期の7,088,039人となっており、44.1%もの増加となっている。
また、前述2サイトのほか、2018年度においては営業戦略・マーケティング戦略・人事、組織戦略に役立つセミナー動画を集めたポータルサイトである「SeminarShelf」を開設しており、こちらはセミナー実施時の初期費用と、成果報酬が同サイトからの収入源となっている。新型コロナウイルスの影響により、多くのセミナー・イベントが中止となった影響と、テレワーク拡大等により3月から動画視聴数、会員獲得数が増加しており、コロナ禍での売上増加が期待できる。

ITソリューション事業

同社のITソリューション事業の主力製品となっているのは、2014年にサービスを開始した「List Finder」である。「List Finder」は、ニーズのある見込み客を発見すをサポートする、クラウド型のBtoB企業向けマーケティングオートメーションツールであり、IPアドレスを活用して自社のWebサイトの来訪企業名を取得することができたり、Cookieを活用して自社のWebサイトにおける企業内個人の行動分析等ができたりするシステムとなっている。同システムは初期費用100,000円と月額利用料を収受する形式となっており、39,800円のライトプラン、59,800円のスタンダードプラン、79,800円のプレミアムプランがあり、アカウント数の増加に伴って売上が増加するが、2020年3月期における契約アカウント数は483件となっている。
「List Finder」はプレミアムプランでは「salesforce」のアカウントとAPIを使って連携することで、「salesforce」に登録されている顧客情報をインポートして活用できるシステムとなっており、Salesforceを利用して顧客管理を行っている会社においてはすぐに活用ができるシステムとなっているため、導入の敷居は低くなっており、アカウント当たりの単価が上昇していることから鑑みると当該機能を利用している会社は増加しているものと考えらえられる。なお、「salesforce」とは、salesforce.comが提供するクラウドコンピューティングにより顧客の情報を一元管理できるCRM(顧客管理)システムであり、日本における販売支援CRMシステムの販売シェアは首位のシステムである。
また、ITソリューション事業において注目すべき事業は2019年6月に取得した株式会社コクリポにおけるウェビナー(Webセミナー)事業である。「コクリポ」は、ウェビナーに特化したSaaS(ソフトウェアをインターネットを通じて沿革から利用者に提供する方式)ツールであり、主催者は社内の自席や会議室からセミナーを配信し、受講者は社内、外出先、自宅等好きな場所で受講ができるシステムとなっている。こちらも「SeminarShelf」同様、コロナ禍における2月からのテレワーク需要等により、社員研修、新卒採用説明会のみならず、営業や投資家株主説明会等幅広い業態での活用が進んでおり、3月のWebセミナー参加者数が2月までの月間平均の21.1倍と利用者数を大幅に伸ばしている。コクリポの収益は月額利用料によるため、利用者増加に伴い更なる売上増加が期待できる。

イノベーションの財務状況と経営指標

同社の直近決算である2021年3月期第1四半期(2020年6月)の財務状況をを見ると、総資産は対前期末比で74百万円減の1,394百万円となっており、主な増減要因は現金及び預金が30百万円増加、売掛金が45百万円増加したことである。純資産は69百万円増加の1,003百万円となっており、主な増加要因は62百万円の四半期純利益を計上したことである。また、財務の健全性を示す自己資本比率は72.0%となっており、有利子負債比率も1.2%と非常に低い水準にあり、2021年3月期においてすべての有利子負債の返済が完了することからも同社の財務状況は健全な状況であると言えるであろう。
収益性についても、同社の2021年3月期の連結業績予想と比較しても、売上高は年間2,110~2,330百万円予想のところ第一四半期で678百万円、営業利益は年間170~210百万円予想のところ第一四半期で94百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は年間90~110百万円予想のところ第一四半期で62百万円と、年間の4分の1を上回るペースとなっている。中でも、営業利益率が前年同期比で、7.31%から13.93%と大幅に上昇し、予測を上回る利益率の上昇により、営業利益及び親会社に帰属する当期純利益は特に進捗が良い。また、同社は2020年9月16日に「2021年3月期通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」を公表し、通期の連結売上高を2,495百万円、営業利益を270百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は145百万円に業績を上方修正している。

イノベーションの第6回新株予約権について

同社の株価を検討する上で、同社が2020年7月31日に割り当てを行った第6回新株予約権について理解をする必要がある。一般的に新株予約権の第三者割当等の増資のリリースがされると、株価は短期的には下落することが多い。これは、第三者割当を受けた会社に有利な条件となっていること等により普通株主に帰属する権利が希薄化することや第三者割当を受けた会社において、割当てを受けた株式を売却することにより、売り圧力が強くなること等が考えられる。そのため、特に規模の大きい増資については、当該増資の内容が株価に大きな影響を与えることとなる。
同社における当該新株予約権はSMBC日興証券に対して行われた第三社割当てであり、新株予約権1個当たり2,772円で3,795個の新株予約権を発行しており、約10百万円の払込を受けている。当初行使価格は1株当たり5,270円であり、当該行使価格にてすべて行使されると379,500株の株式が追加で発行され、差引き手取りで2,003百万円の資金調達ができるとしている。同社の純資産が2021年3月期第1四半期(2020年6月)時点で1,003百万円であり、発行済株式総数は1,998,600株であったことを考えると、同社の純資産ベースで約2倍となる資金調達であり、発行済株式数ベースだと約19%の増加となり、当該資金調達の規模の大きさがわかる。

株主の権利の希薄化ついて

新株予約権が発行された際や増資の際に、株主の権利の希薄化という言葉を耳にすることは多いが、当該希薄化について理解する必要がある。
1点目は、議決権の希薄化についてであるが、発行済株式が増加することにより1株当たりの議決権の比率が低下するため、議決権の希薄化が生じる。ただし、個人株主等の持ち分比率の低い株主にとっては、議決権の比率が低下することで特段考慮する必要はないものと考えられる。
2点目は、普通株主に帰属する当期純利益の希薄化についてであるが、発行済株式が増加することにより、増資後の当期純利益が一定だとすると1株当たりに帰属する当期純利益が希薄化することとなる。
ただし、増資により資金調達した資金を用いて増加した株式の割合分の当期純利益を増加させることができれば理論上普通株主に帰属する1株当たり当期純利益の金額は同額ということになり、それ以上の当期純利益を獲得できれば普通株主に帰属する1株当たり当期純利益は増加することとなる。1株当たりに帰属する当期純利益の増減は配当金等にも影響を与えるため、長期目線で株価に影響を与えることとなると考えられる。したがって、当該増資の資金により、当期純利益をどれけ増やせるかが重要となってくため、増資の際は資金の使途を確認し、当期純利益の増加に寄与するものかを把握する必要がある。
同社の場合、当該資金調達によって得た資金の使途として①新たな価値創造に資する企業等を対象とした将来のM&Aにおける投資有価証券取得資金、②オンラインメディア事業関連の設備投資資金、③当社子会社を通じたマーケティング費用、④当社子会社の人材採用関連費用の4点を挙げており、将来の収益獲得に寄与するものであると考えらる。

修正価格条項について

同社の発行する第6回新株予約権においては、修正価格条項が付いているいわゆるMSワラントというものである。MSワラントとはMoving Strike Warrantの略称であり、日本語では行使価格修正条項付新株予約権と呼ばれる。増資は多くの場合短期的に株価が下落することが多いが、当該MSワラントについては特にネガティブな材料といわれることが多い。
同新株予約権は、前述の通りと当初行使価格は5,270円であるものの、行使価格は新株予約権の行使請求日の前取引日におけるVWAPの90%に相当する金額に修正される。VWAPとは売買高加重平均価格のことで、当日の取引所で成立した価格を価格ごとの売買高(出来高)で加重平均したものののことである。つまり、大雑把に言うと、新株予約権の行使請求日の前取引日の価格の90%で株式を取得できることとなり、権利行使直後に株式を売却すればSMBC日興証券は儲かる仕組みとなっている。なお、下限行使価額は3,162円となっているため、株価がそれ以下の価格となれば新株予約権は行使されないこととなる。通常は行使されなかった新株予約権の払込価格分が新株予約権の割当先の損失となるが、本件では新株予約権発行と同時に締結したファシリティ契約の中で、新株予約権の買取義務が存在するため、2023年8月31日時点でSMBC日興証券が保有する新株予約権の全部を払い込んだ金額と同額でイノベーションが買い取る義務があり、株価が行使価格の下限を下回ることとなり新株予約権が行使されなくてもSMBC日興証券は損失はないため、SMBC日興証券は確実に儲かる仕組みとなっている。
一方で、SMBC日興証券は新株予約権の行使により取得した株式については長期保有する意思を有しておらず、市場動向を勘案して適時売却していく方針であるとしている。また、証券会社は貸株を利用して空売りをすることができるため、既存株主にとっては当該新株予約権の影響により売り圧力が強くなることとなり、短期的に株価が下落することになる。現に、当該新株予約権発行のリリースを公表した7月15日前の株価は5千円台であったものが、執筆時点の9月下旬においては3千円台となっている。
同社は新株予約権の発行と同時に締結したファシリティ契約の中で、極力新株予約権を行使するとする一方で行使停止指定条項を設け、3取引日前までの日に行使停止要請通知により新株予約権の行使ができない期間設定できることとしている。行使される新株予約権の量を一定程度コントロールできるものとして市に過度に影響を与えるものではなく、希薄化の規模も合理的であるとの見解を示しているが、株価の下落及び新株予約権の行使状況及び3営業日前の通知が必要となる条件を見るに、当該条項による株価のコントロールは難しいと考えられる。
短期的には株価が下落するMSワラントであるが、当該増資により調達した資金を会社が有効活用し事業規模を拡大することで、長期的には株価上昇につながる可能性はあると考えられる。

新株予約権の行使状況について

2020年9月17日において公表された「第三者割当による第6回新株予約権(行使価格修正条項付)の大量行使に関するお知らせ」によると、同社の新株予約権は2020年9月17日時点における未行使残個数は1,008個とされており2,787個の新株予約権が行使されていることがわかる。既に74%近くの新株予約権の行使がされている。
9月16日の引け後には同社が「2021年3月期通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」を公表し、業績の上方修正を行ったことから9月17日に株価が大幅に上昇したタイミングでSMBC日興証券は当初取得した新株予約権の三割程度にあたる1,200個の新株予約権を行使しており、120,000株の交付を受けているため、ここで多額の利益を得たものと考えられる。
これらにより、新株予約権も残すところ約26%なっている。SMBC日興証券は同社の提出した変更報告書によると新株予約の行使により取得した株式を適時市場で売却しているものの、株式として保有する残高もあり当該新株予約権がいつまで株価に影響を与えるかは定かではないが、当該新株予約権の行使が完了し当該交付された株式の売却が完了すると同社の株価を押さえつける要因がなくなるのではないかと考えられる。

イノベーションのカタリスト

同社のカタリストとしては、前述の通りSMBC日興証券の新株予約権の行使完了及び株式の売却完了がカタリストと考えられる。同社は業績の上方修正もしており、SMBC日興証券による株式の売却の影響がなくなると株価は上昇していくことが考えられる。
2点目のカタリストとしては、M&Aに関する情報の公表が考えられる。同社は増資により得た資金を原資として2021年8月~2022年8月において250百万円、その翌年に250百万円をM&Aにおける投資有価証券取得資金として使用する計画を示している。現時点において、具体的な投資先は決まっていないとしているものの、M&Aに関する情報のリリースは内容によっては株価に大きな影響を与えることもあり、同社のカタリストとなるといえるであろう。