6196 ストライクの業績について考察してみた

PERAGARU管理人

ストライクの事業概要

同社は1997年7月に東京都足立区にて、株式会社天会計社として荒井邦彦氏により設立された。同社設立までの同氏の経歴は、1970年生まれで千葉県出身市川高等学校、一橋大学商学部を卒業し、太田昭和監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)に勤務した。同社は1998年1月、国内初のインターネットM&Aマッチングサイト「M&A市場SMART(Strike M&A Rapid Trading system)」を開設した。また、同社は2015年7月にM&A専門の情報サイト「M&A Online」を公開し、2016年6月に東証マザーズに株式を上場、2017年6月に東証一部に市場変更を果たした。
同社の筆頭株主は株式会社K&Company(荒井氏の資産管理会社)で28.27%(自己株式を除く)の株式を保有している。第2位の株主は荒井氏で21.45%の株式を保有している。第3位以下は主に同社取締役と機関投資家であり、それぞれ5%未満の割合で株式を保有している。荒井氏は資産管理会社と合わせて49.72%の同社株式を保有する大株主であることから、同社は実質的に荒井氏によって支配されている会社であると読み取れる。
また、同社の取締役は6名おり(うち社外取締役2名)、そのうち4名が公認会計士であることから、同社は監査法人で培われたノウハウを基盤にしたM&A仲介業という特色を持っているといえる。
また、同社はM&A仲介事業の単一セグメントであるため、有価証券報告書にセグメント情報は記載されていない。同社の示すM&A仲介事業には、付随業務としてM&Aアドバイザリー業務、M&A市場SMARTの運営、企業価値評価、企業価値向上・財務コンサルティング、デューデリジェンスが一部含まれている。
また、同社は東京本社の他に、札幌、仙台、名古屋、大阪、高松、福岡にオフィスを構えており、中小企業のオーナー経営者に対面で迅速にアプローチできる強みがある。

M&A仲介事業

M&A仲介のビジネスモデルは、企業または事業の買い手と売り手のニーズをマッチングし、双方から着手金や成功報酬を受け取る構造である。売り手から手数料を受け取らないビジネスモデルも存在するが、株式譲渡や事業譲渡の代金で調整し、実質的に売り手の負担は変わらないことが多い。
売り手から見たM&Aの流れは、無料相談、仲介依頼契約締結(着手金支払)、企業価値の簡易評価、買収候補の提案、条件交渉、基本合意の締結、デューデリジェンス、最終契約の締結(成功報酬支払)という順序で行われる。多くの売り手は売却実務を遂行できないので、同社がM&Aの全面的サポートをする形になる。
M&A仲介はキャッシュインの額とタイミングの予測が非常に難しいビジネスである。経済動向によって買い手と売り手のニーズが急変するだけでなく、M&Aの相談から成約までのプロセスが非常に長いことがその理由である。
同社の着手金、成功報酬の詳細は開示されていないものの、成功報酬についてはレーマン方式を採用している。レーマン方式とは、取引金額に応じて報酬料率が逓減する仕組みを指す。
同社の競合には日本M&Aセンター(2127)、M&Aキャピタルパートナーズ(6080)が挙げられる。特に中小企業M&A最王手である日本M&Aセンターの業績拡大は著しく、時価総額は900,000百万円に迫る勢いである。世界に先駆けて高齢化社会に突入している日本独自の事業承継問題が深刻化していることから、経済産業省管轄の中小企業庁主導でM&Aを促進していることが、日本M&Aセンターの株価上昇やM&A業界の盛り上がりを後押ししているといえる。日本の事業承継問題は深刻化する一方であるため、ストライクは成長余地の大きい事業ドメインで勝負をしているといえるだろう。M&Aニーズ拡大を察知し、同社は2019年8月期からM&Aコンサルタントの積極採用を行なっている。(同社の有価証券報告書、荒井氏による決算説明をもとにPERAGARU管理人が作成)。

2018年8月には47人であったM&Aコンサルタントの人数は、2020年8月には111人と、2倍以上に増えている。一方で同期間のM&Aコンサルタント1人あたり成約数は1.87組から1.21組に減っている。成約数自体は右肩上がりであるため、1人あたり成約数の減少はM&A未経験者を大量に採用したことが主な原因であると予測できる。未だに会社を売るという行為にマイナスイメージを持つ人も多いことから分かるように、M&A市場は徐々に身近になりつつあるもののまだ歴史の浅い領域であり、経験者を採用するのが非常に難しいことが読み取れる。荒井氏は2020年8月期決算説明において、「3年の実務経験を積んだコンサルタントは年間4件以上成約すること」を目標に掲げている。M&Aは財務・税務・法律等の広範な知見だけでなく営業力が伴わなければ成約数を伸ばすことができない。同社が当該ポテンシャルのある人材を採用し、実際に数字を挙げられるコンサルタントをどれだけ多く育てることができるのか注視すべきである。また、M&Aの平均単価について2020年8月期は52百万円程度であると予想できる(売上高÷成約数)。取引金額に関わらず、M&Aの実務の工数は大きく変わらない場合が多いため、同社は平均取引金額の上昇が粗利益率の増加に寄与するモデルである。

M&A仲介の構造の課題

大手M&A仲介業者の業績はアベノミクス開始以降、基本的に向上しており株価も上昇基調にある。しかしながら、M&A仲介は構造上の問題点を指摘されることもあり、この認知が拡大すれば同業界全体の大きな損失となり得るため、ここで2点取り上げたい。
1つは買い手と売り手の利益相反の問題である。買収金額(売却金額)を下げる提案は買い手に有利である一方で売り手が損をすることになってしまう構造が典型例である。
2点目は、買い手と売り手のM&Aの知識や経験の差である。買い手はファンドや大企業が多い一方で、売り手には設立から間もないスタートアップや事業承継に悩む中小企業が多い。買い手は売り手に比べて資金力もM&Aの知見も優れている場合が多く、一度M&Aを成約した後もM&A仲介業者の得意先になる可能性が高い。これら2つの理由から、M&A仲介業者が買い手有利(売り手不利)の業務を遂行してしまう構造になっている。また、M&A仲介業者が金融機関や会計事務所等にM&Aの案件発掘を外注している場合は、更なる問題点が生じる。外注先の典型例には、証券会社のリテール営業員が挙げられる。証券会社は基本的に売り手をM&A仲介業者に紹介し、着手金と成功報酬を折半する形で受け取る仕組みになっている。この点、成功報酬の高い方が証券会社リテール営業員の成績向上に繋がるため、売り手を手数料の高いM&A仲介業者に紹介した方が得をするという誘因がある。
以上より、M&A仲介は売り手に不利になりやすく、買い手に対して売り手が足りていない需給状況を考慮すると、当該問題点の認知拡大は同社にとって悪影響であるといえる。

ストライクの財務状況と経営指標

同社の経営指標(2020年8月期)を見ると、ROE(自己資本利益率)36%という高い数値が印象的である。日本M&Aセンターは32.6%、M&Aキャピタルパートナーズは26%であるから、M&A仲介業者のROEが高くなりやすいことに加え、同業界の中でも同社のROEが群を抜いて高水準であることが読み取れる。しかし、「ROE=売上高純利益率×総資本回転率×財務レバレッジ」と分解できることから分かるように、ROEはある程度財務上の操作で変化させることができるため,ROEの中身を分析すると、同業界の売上高純利益率が突出して高く、財務レバレッジが低く、同社の総資本回転率0.76回は他業種と比べて低いが競合より高いことが読み取れる。つまり、M&A仲介業自体が高利益率になりやすいこと、同社が競合に比べて資産を効率的に使っていることが読み取れる。
また、同社の財務状態について、現金及び現金同等物の2020年8月末残高は7,871百万円、流動比率(流動資産÷流動負債×100、200%以上が望ましい)は420.05%と、非常に高い安全性を保っていることが読み取れる。上記の数値は、「1年分の売上債権がすべて貸し倒れても持っている現金で会社を経営していける。」・「何か支払いを求められても4倍以上の返済原資がすぐに用意できる。」ということを示している。
同社の貸借対照表を見ると、2018年8月から2020年8月にかけて総資産が3,627百万円増加しているが、内訳は現金及び預金の2,954百万円の増加が大部分である。そして、2020年8月の総資産9,046百万円のうち現金及び預金は7,872百万円である。
また、同社のキャッシュフロー計算書(以下、キャッシュフロー計算書をC/S、キャッシュフローをCFと表記)について分析すると、2020年8月期までの5会計期間において営業C Fは毎年着実に金額が大きくなっていて、2018年8月期は2,888百万円であった。投資CFは毎年マイナスだが、フリーCF(営業CF -投資C F)は毎年プラスである。財務CFはプラスとマイナスどちらの年もある。以上より、同社は利益を生み出すシステムが確立されており、儲けた範囲で投資を行うという堅実経営であることが読み取れる。更にC/Sを詳しく見ると、2019年8月期、2020年8月期の売上債権の増減額がそれぞれ351百万円増、209百万円減と、大きく振れていることが読み取れる。これはM&A業界の繁閑の差の激しさとCFの不確実性を表しているといえるだろう。

ストライクのカタリスト

M&Aコンサルタントの採用活動と育成が同社のカタリストになるだろう。荒井氏は2020年8月期決算説明において、「毎年30名採用して、良い人がいれば30人を超えても採用する。」と発言している。M&A市場自体は拡大傾向にあるため、M&A未経験者の育成が上手くいけば、株価は上昇しやすいだろう。
また、Webセミナーとインターネット集客の強化が同社のカタリストになるだろう。新型コロナの影響で、実際の会場でのセミナー、提携先金融機関等の対面営業が難しくなっている。さらに、M&A仲介業は専門の資格要件があるわけでなく、参入障壁が低いため、インターネットに強い業者の新規参入が考えられる。新型コロナの影響を受けたM&A業界の変化に素早く適応し、中期経営計画で掲げた「コンサルタント1人あたり年間4件成約」という目標の達成が見えてくれば、同社の株価は上昇するだろう。