4571 ナノキャリアの業績について考察してみた

4571 ナノキャリアの業績について考察してみた

PERAGARUアナリスト

沿革

1996年6月、ナノテクノロジーの医薬品分野への応用を事業目的として、ナノキャリア株式会社設立。ミセルと呼ばれる水溶液中に浮遊する超微粒子に薬剤を封入する手法を用いて、新方式のドラッグデリバリーシステム(DDS)構築のための研究開発を行う。2004年5月より日本化薬株式会社などのライセンス契約締結先が、抗がん剤を中心に各種高分子ミセルを導入した薬剤の臨床試験を随時開始。2008年3月には、東証マザーズ上場。2012年7月、株式会社アルビオンと化粧品素材の開発及び商業化に関する契約を締結し、化粧品事業へも参入。DDS製剤は患部に作用する薬剤(主剤)の補助的役割をなし主剤そのものとはアプローチが異なるものの、化学療法の高効率化を共通の目的とする。この点で、同社は一種の創薬ベンチャーである。

株主構成

四半期報告書によると、2020年9月末時点で5%以上を保有する株主はなく、筆頭株主はファストトラックイニシアティブ(ライフサイエンス・ヘルスケア分野のVC)2号投資事業有限責任組合で2.53%。次いで、ポリマーの開発に関する共同研究契約を締結している信越化学工業株式会社が2.38%。その他、東京大学発の関連ベンチャーへ出資する協創プラットフォーム開発1号投資事業有限責任組合1.90%や、創業者で前代表取締役社長の中冨一郎氏が1.40% 、その他証券会社などが並ぶ。外国人株式保有比率は10%未満(2020年3月末時点)。

取締役会

取締役は11名(社内4名、社外7名)、うち3名は監査等委員(社内1名、社外2名)、監査等委員会設置会社である。代表権を持たない社内取締役は、りんかい日産建設株式会社、協和キリン株式会社などの出身者。社外取締役には、当該分野における著名な研究者であり、同社の主要技術であるミセル化ナノ粒子技術を発明した医学部名誉教授の片岡一則氏などが就任。

代表取締役の経歴

代表取締役社長の松山哲人氏は1962年7月生まれ。北海道大学卒業後、1986年4月に三菱商事株式会社入社。株式会社メディカル・プロテオスコープ代表取締役社長、日東紡績株式会社参与・理事などを歴任後、2014年12月に同社顧問に就任。取締役CFO、取締役CSFOなどを経て2019年11月より現職

報告セグメント

「医薬品等の研究開発及び製造販売並びにこれらの付随業務」の単一セグメントであるが、応用分野別に「低分子抗がん剤」、「核酸医薬品」、「化粧品」に大別される。それぞれの売上高、利益等は開示されていないが、主力は低分子抗がん剤への応用とみられる。

公式ウェブサイト内「事業内容」

事業モデル

高分子ミセルによって効能を向上させたDDS製剤の開発を事業とする。同社が「ミセル化ナノ粒子」と呼ぶ高分子ミセルに主剤を封入することで、粒子サイズを主剤そのものの分子サイズより増大させ、これによって患部へ選択的に到達する機能を与えることが技術面でのポイントである。サイズ上の特徴は、主剤の分子より大きく赤血球より小さい点である。

公式ウェブサイト内「事業内容」(1nm = 1/1000,000mm)

がん組織が作る毛細血管は栄養を取り込むために急激に成長するため、血管壁の構造が荒くなり150~300nmの隙間があることが知られている。同社のミセル化ナノ粒子はこの隙間を通り抜ける大きさに制御されており、がん組織に集積する。これがEPR効果と呼ばれる現象で、この性質を利用し、主にがん領域での開発を中心として行っている。
がん組織にナノサイズの粒子が集積するため薬剤を患部に直接大量に運ぶことができ、そのため正常な組織へのダメージを抑制し副作用の軽減が可能。ミセル化ナノ粒子は目標部位に到達した後に分解し、内部の主剤が放出され患部に作用する。これにより、より多くの薬剤を使用することができ、有効性の向上が見込まれる。
公式ウェブサイト内「事業内容」>「低分子抗がん剤への応用」

現在、7種の開発品が試験段階にあり、ミセル化ナノ粒子VB-111に封入した抗がん剤「パクリタキセル」による卵巣がん治療、及びENT103を導入した中耳炎治療が、第3相臨床試験(臨床試験の最終段階、Phase 3とも呼ばれる)に到達。なお、VB-111の国際共同第3相臨床試験(日本、米国、欧州、イスラエル)に関しては、2021年度中の登録完了、2023年6月の試験完了を予定している。

競合他社

高分子ミセルを導入したDDS製剤はユニークで、同社は当該分野における魁のため直接的に競合する他社はないが、例えば(株)LTTバイオファーマ(非上場)は高分子ミセルDDS製剤などを開発するベンチャーである点で競合し得る。売上高19百万円(2020年3月期)。

連結の範囲

同社グループは、同社、非連結子会社1社で構成される。子会社に関しては、重要性が乏しいとの理由で詳細は非開示。

強み・弱み

抗がん剤そのものに比較して開発期間が短く、他の主剤への応用も可能なDDS製剤に特化している点は、リスク低減と新市場開拓に寄与している。一方、創薬ベンチャー全般に該当することではあるが、臨床試験段階における有害事象の発生等による、開発中止や遅延等の可能性が常に存在する。

KPI

パイプラインとその進捗状況、効奏率などが主要なKPIとみられる。
・VB-111第3相臨床試験:260例以上登録済(2021年5月時点)、2023年6月完了予定
・VB-111効奏率:53.3%

2021年3月期決算説明会資料p.9

業績

上場来赤字のままである。2021年3月期は、売上高313百万円(前期比▲43.3%)、営業利益▲1,302百万円(前期比▲197百万円)、経常利益▲1,278百万円(前期比▲134百万円)。営業CFは恒常的にマイナス、投資CFは2016年3月期ならびに2018年3月期がプラスの他はマイナス。直近決算期の自己資本比率は94.8%。