6049 イトクロの業績について考察してみた

PERAGARU管理人

イトクロの事業概要

同社は創業者であるオン・ザ・エッヂ出身のエンジニア伊藤弘和氏と黒岩剛史氏の頭文字をとって命名され、2006年3月に東京都渋谷区に設立された。2007年11月に「塾ナビ」の提供を開始している。その後は「FX比較オンライン」、「BEST証券比較」、「みんなのカードローン」等、金融系ポータルサイトを運営していたが現在はクローズしている。「家庭教師比較ネット」、「医学部受験マニュアル」、「みんなの学校情報」等、教育系のポータルサイト運営は軌道に乗るものが多く、現在は7つのサイトを運営している。「塾ナビ」や「みんなの学校情報」等のメディアサービス事業が売上高全体の97.6%を占め、残りの2.4%がコンサルティングサービス事業である。同社の有価証券報告書をではインターネットメディア事業の単一セグメントで表記されていることから、「塾ナビ」と「みんなの学校情報」での収益が会社の業績と連動していると判断して問題ないであろう。実際に同社の有価証券報告書を見ると、インターネットメディア事業の単一セグメントであると分かる。同社は2015年7月に東証マザーズ上場を果たしている。
また、同社の東京本社は品川区大崎、大阪支社は中央区南本町に位置する。従業員数は144名であり、上場企業としては少数である。
株主構成については、代表取締役CEO山木学氏が55.6%の株式を保有する筆頭株主である。山木氏は1977年に生まれ、慶應義塾大学大学院理工学研究科修士修了後はリクルートにて2年間広告営業等の業務に従事している。2004年カカクコムに入社し新規事業開発に携わり、2006年12月に設立後半年のイトクロに取締役として参画した。2015年11月(東証マザーズ上場の4ヶ月後)より現職として活動している。代表取締役COO 領下崇氏は1977年生まれで、トライグループとNIコンサルティングを経て2008年2月にイトクロに参画している。2015年11月より現職にて活動している。
時価総額は32,886百万円でメディア業(東洋経済業種60種)122社のうち40位前後で推移している(2020年9月17日現在)。
配当については既存事業の深掘りを目的とした投資に使用するため、内部留保を優先すると有価証券報告書に記載があり、配当開始はしばらく先になるであろう。

「塾ナビ」

「塾ナビ」は小・中・高校生の塾検索サイトであり、2020年10月期が15期目となる同社の主力事業である。教育に関する情報を得たいユーザーがポータルサイトを閲覧し、サイト経由で教育事業者に申し込みをした場合に、当該事業者からイトクロに成果型報酬を支払うというビジネスモデルである。
2020年9月17日現在GoogleやYahoo!において「塾」、「学習塾」、「塾 どこ」、「塾ランキング」、「塾 オススメ」などと入力すると「塾ナビ」のサイトが最上位に表示されるなど、SEOはかなり上手くいっているといえる。。サービス開始から14期連続で訪問者数が増加しており、第14期(2019年10月期)の年間訪問者数は2,520万人で国内No.1 である。86,000件の教室を掲載し、口コミも210,000件と豊富であることに加え、当サイト経由の入塾で誰でも5,000円分のギフトカードをもらえる特典もついている。時間の経過とともに情報が蓄積してユーザーにとっての安心感が高まる構造に設計されている点が同サイトの強みといえるだろう。実際にサイトを確認すると、ギフトカードやランキング、塾の広告等が巧みに散りばめられており、ユーザーが広告をクリックしやすい設計となっている。

「みんなの学校情報」

「みんなの学校情報」は全国の保育園、幼稚園、小学校、中学校、高校、専門学校、大学等の学校選びに役立つ情報を総合的に得ることのできるポータルサイトであり、同社の運営するサイトにおいては「塾ナビ」に次ぐ主力サイトである。
実際の生徒等本人や保護者からの口コミ情報が100,000件以上掲載されており、偏差値ランキングや各学校の学べる内容などの充実したコンテンツが閲覧できる。実際に筆者の出身大学についても確認をしてみたが、在校生のリアルなコメントが掲載されており、受験生を誤導するような情報は特に見当たらなかったため、ユーザーにとっては非常に有益なサイトであると言える。従って、受験生やその親をターゲットにしたい学校法人が同サイトに広告を掲載する効果は大きいと言える。
このように同社はインターネットメディア運営に強みを持つことから、既存事業の深掘りと未参入領域への横展開が将来の業績の鍵を握るであろう。

イトクロの財務状況と経営指標

キャッシュ・フロー計算書(以下、キャッシュ・フローをCF、キャッシュ・フロー計算書をC/Sと表記)をみると、ここ数年の通期営業CFは10億円前後で推移している一方、2016、2017、2019年10月期の投資CFがマイナス10億円を超えており、内訳さえ見なければ同社のC/Sからは高い投資意欲を読み取れる。しかし2017年10月期以降、営業活動によるキャッシュフローが一貫して減少していることから、本業の収益力が低下しているとも予想できる。ここで、2019年10月期有価証券報告書の「CFの状況」の投資CFの記載を見ると、定期預金の預入と払出が投資CFの最大の項目であると分かる。そして実際にC/Sを見ると、定期預金の預入と払出の差額が1,000,593千円のキャッシュアウト、すなわち投資CF の82.2%は定期預金が増えた分であると分かる。企業の規模を拡大する多くのケースでは、必要な備品や不動産を取得する傾向にあるため「有形固定資産の取得による支出」項目が大きくマイナスになる。また、新しいインターネットサービスを開発する場合は「無形固定資産取得による支出」がマイナスになるだろう。積極的に他社への影響力行使をしようとすれば「関係会社株式の取得による支出」がマイナスになる。少なくともイトクロのC/Sには、当該事項は見受けられない。現金及び現金同等物の同期末残高は4,262,483千円であり、ほとんど借入もない。従業員数は年間数人増える程度である。以上より、同社は積極的に関連事業・新規事業を推進しようという雰囲気ではないことが読み取れる。
次に損益計算書(以下、P/Lと表記)に話題を移し、売上高に着目したい。同社の売上高は2018年10月期には4,491,609千円であったが、2019年10月期には4,382,375千円と、1億円以上減少していることが分かる。2020年10月期の売上高を予想するため、四半期の売上高にも着目する必要がある。2020年第1四半期売上高(2019年11月から2020年1月)は985,864千円、2020年第2四半期累計売上高 (2019年11月から2020年4月)は2,011,589千円、2020年第3四半期累計売上高(2019年11月から2020年7月)は2,994,151千円である。2020年第3四半期累計売上高の進捗率は 通期の会社予想4,500,000千円に対して66.5%である。市場のコンセンサス4,200,000千円に対しても71.3%である。季節によって売上高が偏る可能性があるため、この進捗率の良否について考察する必要がある。通期の売上高実績を100%とした場合の各期の売上高進捗率は、2019年第1四半期(2018年11月から2019年1月) が23.6%、第2四半期累計(2018年11月から2019年4月) が54.7%、第3四半期累計(2018年11月から2019年7月) が 83.0%である。同様に、2018年第1四半期(2017年11月から2018年1月)が21.0%、第2四半期累計(2017年11月から2018年4月) が50.0%、第3四半期累計(2017年11月から2018年7月)が 80.3%である。当該データより、2月から7月である第2四半期と第3四半期の売上高が通期売上高の60%近くを占める傾向が読み取れる。これは新年度前や夏休み前に塾を探すユーザーが多いためである。以上のことから、売上高の予想に対しては第3四半期累計で80%程度の進捗率であることが望ましい。2020年10月期の売上高は非常に厳しい数字になることが予想される(3,750,000千円前後か)。子供が塾に行くのを控えることを想像すると、新型コロナの影響は小さくないと考えられる。
P/Lを見る上で次に重要になるのが費用であるが、費用の増加についての記載は既に他の記事でコメント済みであるため、こちらを参照頂きたい。
次に、貸借対照表(以下、B/Sと表記)に話題を移したい。C/Sについては辛口の記載をしたが、B/Sからは同社の財務安産性の高さが読み取れる。2019年10月における同社の流動比率(流動資産÷流動負債×100)は1,049%と圧倒的な数字である(200%以上であると安全と言われることが多い)。また、手元流動性(現金預金とすぐに処分可能な有価証券÷月商)は20.7ヶ月と圧倒的な数字である。手元流動性は大企業で1ヶ月分、2ヶ月弱分あれば大丈夫と言われている項目である。固定費を大きくかけずに運営することができるインターネットメディア事業の特色が反映されており、業績が悪化したとしても当面の安全性について議論する必要性は低いと言える。

イトクロのカタリスト

同社の株価は2020年9月13日の決算発表を受けて、14日・15日と2日連続ストップ高となり、年初来高値を更新した。当該決算において、非連結決算に移行することに加え、2020年10月期の営業利益予想を1,100百万円と発表している。連結ベースでの前回予想は1,300百万円であった。新型コロナの影響は4月で底を打ち、第3四半期に回復、第4四半期は前年同期を上回る見込みとしており、株式市場からは好感されている。なお、連結ベースでの第3四半期累計(19年11月から20年7月)の営業利益は929百万円(前年同期比増減率は非開示)で着地している。つまり、新型コロナの影響を克服したと感じさせる営業利益を2020年10月期の決算で証明できるかどうかが同社のカタリストとなるであろう。
また、新型コロナが話題になる前の2018年末から2020年初めにかけて、株価が4,000円付近から1,500円前後にまで落ち込んでいるが、もちろんこの下落は新型コロナの影響ではない。インターネットメディア事業だけを営む企業の株価チャートを見ると、多くの企業が2018年をピークに株価を大幅下落させている。一方で、インターネットメディアの運営をしつつも関連事業・新規事業の投資に成功している企業は、アベノミクス開始以降は右肩上がりのチャートであるという傾向が伺える。イトクロの今後の成長戦略は、運営する「塾ナビ」、「みんなの学校情報」等、学習塾予備校領域、民間教育領域及び 学校教育領域における領域特化型ポータルサイトにおいて、さらなるシェア拡大を行い「教育メディアNo.1」になることである。その姿勢が分かる行動として2015年の東証マザーズ上場以降、同社は組織再編行為を複数回実施している。2016年6月には学生向けコミュニティポータルサイト「キャスフィ」の事業譲受、2016年7月には地域情報ポータルサイト「ビットストリート」を運営している株式会社Acuz子会社化、2018年9月には医学部受験予備校情報ポータルサイト「医学部予備校ガイド」を運営している株式会社えふなな子会社化、2019年11月には習い事情報ポータルサイト「コドモブースター」や子育て情報ポータルサイト「comolib(コモリブ)」を運営している株式会社センジュ完全子会社化を実施している。しかしながら、当初から一貫して依存している「塾ナビ」を超えるサービスに成長していない従って、今後の組織再編行為の良否が同社のカタリストになると言えるだろう。