8260 井筒屋の業績について考察してみた

8260 井筒屋の業績について考察してみた

PERAGARU管理人

井筒屋の事業概要

同社は1935年に株式会社井筒屋百貨店として設立され、翌年に北九州市小倉北区に現本店である井筒屋をオープンした。1951年には商号を株式会社井筒屋に変更し、1961年に福岡証券取引所に上場、1972年には東京証券取引所第二部に上場し、翌年に東京証券取引所第一部に指定替えとなり現在に至る。同社は、設立にあたって九州電気軌道(のちの西日本鉄道株式会社)の出資を受けて設立されたことから、かつては西鉄グループに所属していたが、現在では西日本鉄道株式会社の保有割合は9.2%と減ったものの、同社の筆頭株主となっている。
同社の報告セグメントは「百貨店事業」と「友の会事業」としているが、「友の会事業」の売上高は売上全体の1%にも満たず、同事業は同社グループの百貨店各社に対する前払式の商品販売の取次であるため、同社のビジネスは「百貨店事業」であると考えて差支えないと思われる。なお、友の会とは世間的に広く使われる用語で、百貨店等ではよく導入されている仕組みである。同社においても会員が12ヶ月間毎月一定額を積み立てることにより、会員は満期になると13ヶ月分の商品券などを受け取ることができるといった会員制の仕組みである。
連結子会社は、山口県山口市において同社と同様百貨店業を営む株式会社山口井筒屋、レストランの経営を営む株式会社レストラン井筒屋、店舗内の清掃を行う井筒屋サービス株式会社、「友の会事業」を営む株式会社井筒屋友の会の4社を連結子会社としている。また、情報処理サービス業を行う株式会社ニシコンの1社を持分法適用会社としている。

百貨店業

百貨店とは、デパートとも略称され、日常生活品を中心に多種類の商品を部門等に分けて陳列販売する大規模経営の総合小売店のことをいい、百貨店を展開する上場企業を挙げると株式会社三越伊勢丹ホールディングス<3099>や、株式会社高島屋<8233>、阪急百貨店や阪神百貨店を展開するエイチ・ツー・オー リテイリング<8242>等がある。なお、イオン株式会社<8267>のように、多数の小売・サービス業を集積する商業施設を設置し、テナントに貸すことで賃貸収入を得るショッピングセンター(SC)業とは収入の形態が異なる。
同社の百貨店事業は、北九州市小倉北区にある井筒屋本店での営業が中核ビジネスとなっており、当該売り上げが同社グループの連結売上に占める大部分を占めている。同店舗においては2019年の全国百貨の店舗別店売上ランキングで31位となっており、地方百貨店ながら上位に位置している。連結子会社である株式会社山口井筒屋が営業する井筒屋山口店における売上は連結売上の10%程度であり、その他は福岡県北九州地区を中心としたサテライトショップにおいても営業を行っている。同社のように、地方で百貨店業を営む上場企業としては、姫路駅ターミナルにおいて百貨店「山陽百貨店」を置く株式会社山陽百貨店<8257>や、金沢と富山に百貨店「大和百貨店」を置く株式会社大和<8247>がある。
百貨店業界は、ショッピングセンターやネット通販、フリマアプリ等に押され、業界全体として売上は右肩下がりで、非常に厳しい状況にある。また、昨今の新型コロナウイルスの感染症拡大の影響で、店舗を閉鎖させたりと非常に大きな損害を被った業界の一つといえるであろう。同社においても、非常に厳しい状況にあるといえる。

井筒屋の財務状況と経営指標

同社の直近決算である2021年2月期第1四半期(2020年5月)の財務状況をを見ると、総資産は対前期末比で2,876百万円減の47,463百万円となっており、主な増減要因は現金及び預金が2,027百万円減少、受取手形及び売掛金が355百万円減少したことである。純資産は836百万円減少の7,277百万円となっており、減少要因は836百万円の四半期純損失を計上したことである。これらは主にコロナ禍の影響による緊急事態宣言を受け、4月9日から5月15日までの37日間、本店及び黒崎店において食品売場以外のフロアを休業したこと等が影響と考えられる。
また、財務の健全性を示す自己資本比率は3.2%と低いとなっている。これは、純資産のうち5,766百万円は後述する土地再評価差額金であり、株主資本は1,510しかないことから自己資本比率が低くなっている。同社の短期的な支払能力を示す流動比率も前期末時点では415.5%と100%を大幅に超えており1年以内に支払い不能になる可能性が高いとみられる水準であり、有利子負債比率も1,402.5%と非常に高い水準にあることから、同社の財務状況は非常に厳しい状況であり、直ちになんらかの資本増強策が必要となってくると思われる。
収益性についても、2019年4月に公表した中期経営計画について、本年度が最終事業年度となり、同事業年度の目標を売上を60,000百万円、営業利益率を2.00%、経常利益率を1.17%として、不採算店舗の閉鎖や、運営コストの低減により、収益率の改善を掲げており、2020年2月期における売上高は66,145百万円、営業利益率は1.97%、経常利益率は1.56%と、同事業計画を概ね達成している水準にあったが、2021年2月期においては新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、当該目標の達成は絶望的となっている。

井筒屋の土地の評価について

同社の2021年2月期第1四半期末における土地の帳簿価額は24,011百万円あり、同社の総資産の50.6%を占めており、同社にとって重要な位置づけにある資産である。しかし、土地は帳簿上基本的に取得価格で評価され、適時に時価評価されるものではないため、当該土地の実際の評価額について考える必要があると考えられる。
同社における重要な物件はJR小倉駅から徒歩7分程度のところに位置する井筒屋本店であり、同物件は1936年にオープンしているしていることを考えると取得時から非常に時間が経過しているため、時価は上昇していることも期待できるが、果たしてそうなのであろうか。従って、同社の土地の評価額について検討していく。

土地再評価法、土地評価差額金について

同社の貸借対照表を見ると、純資産の分に土地再評価差額金5,766百万円計上されていることがわかる。同社の土地の評価を検討するうえで、当該土地再評価差額金及び当該科目を計上することとなった土地再評価法を理解する必要がある。
土地再評価法とは、1998年に主に金融機関や事業会社の資本(純資産)を貸借対照表上で増強することを目的としてできた法律であり、金融機関や業歴の長い上場事業会社・上場不動産会社を中心に、1,000社以上がこの法律にもとづく土地再評価を実施し、資本(純資産)の増強をした。
具体的には、前述の通り貸借対照表上土地は取得価格で評価され、その後時価が上昇しても貸借対照表上特段反映されないが、土地再評価法により1998年から4年間に限って、事業用の土地の時価上昇による評価益分を、資産の部の土地の価格を増額させることができた。なお当該増額分見合のうち、当該土地を将来売却した際の利益にかかる税金分となり、負債の部の計上する「繰延税金負債」を控除した金額を、純資産の部に土地評価差額金を計上することとなる。同社においては、2001年2月期において、当該土地の再評価を行い、土地再評価差額金と再評価にかかる繰延税金負債を計上している。
つまりどういうことかというと、同社が保有し、貸借対照表に計上されている土地は、2001年2月期の時価で計上されており、土地再評価差額金5,766百万円と、再評価にかかる繰延税金負債2,874百万円の合計である、8,640百万円が本来の土地の取得価格にプラスされて計上されているということである。

井筒屋の土地の評価の検討結果

土地は、個別性が高く時価を算出することが困難な資産の一つであるが、当該時価を検討するうえで参考になるのが公示地価である。公示地価とは、国土交通省が毎年1回公示する標準地の価格のことであり、「住宅地」や「商業地」等、土地の利用目的に応じて分類されている。
本件については、井筒屋本店の近隣の商業地で標準地となっているか所の平均の地価公示について比較検討してみる。2001年においては平均金額は566,571円/㎡であったのに対し、2020年における平均金額は249,563円/㎡でとなっている。標準値の地点や地点数が異なることから単純に比較することは適切でないが、約半分の価格となっていることがわかる。
同社が2020年2月期に開示している「再評価を行った土地の期末における時価と再評価後の帳簿価額との差額」においてもマイナス6,177百万円と開示しており、同社において再評価した土地の貸借対照表計上額が過大であることを表している。
また、同社が保有する土地や建物等の固定資産のうち賃貸商業施設等の賃貸不動産及び遊休資産の貸借対照表計上額は2020年2月末時点で3,562百万円であり、同日付の時価は2,119百万円としており、こちらも時価が貸借対照表を下回っていることを示しており、40%も下回っている。
従って、同社の土地の貸借対照表計上額は時価と比して過大となっている状況といえるであろう。土地については土地再評価法以外において評価益を計上しない一方で、基本的に評価損も計上することはないが、時価が貸借対照表計上額の50%を下回ると、減損損失を計上しなければならなくなる可能性があることに留意する必要がある。

井筒屋のカタリスト

同社におけるカタリストとしては、東証第一部から、東証第二部への指定替えが考えられる。同社は、2020年7月末時点において月末時価総額が20億円未満となったことから、9ヶ月後となる2021年4月末までに月間平均時価総額及び、月末時価総額が20億円以上とならなければ、東証第二部への指定替えとなる見込みである。そのため、東証二部への指定替えとなった場合は、同社の株価が下落する可能性が考えられる。現在の発行済株式総数は11,480,495株であるので、時価総額が20億円以上となるためには、株価が175円以上となる必要があるため、その点には留意したい。
また、同社の資金繰りについてもカタリストとなるであろう。前述の通り、同社の経営状況は新型コロナウイルス感染症拡大により大きな影響を受けており、財務状況も非常に厳しい状況にある。そのため、直近の資金繰りについても懸念が残る状況であるため、同社の資金繰りについての不安を払拭するような、既存株主の株式の希薄が小さい方法での資本増強、または経営支援を伴う長期借入等ができることにより、同社の株価は新型コロナウイルス感染症拡大前の水準に近づく可能性はあると考える。