【上場廃止】3658 イーブックイニシアティブジャパンの業績について考察してみた

【上場廃止】3658 イーブックイニシアティブジャパンの業績について考察してみた

PERAGARUアナリスト

沿革

2000年5月、東京都にて株式会社イーブックイニシアティブジャパンとして設立、同年12月より電子書籍の配信を開始。2003年9月Yahoo!コミックへコンテンツ提供を開始。2011年10月東証マザーズ上場、2013年10月東証一部へ変更 2016年6月ヤフー株式会社と資本業務提携を締結、同年9月にヤフー株式会社およびソフトバンクグループ株式会社の連結子会社へ2022年2月「LINEマンガ」を運営するLINE Digital Frontier株式会社(以下、LDF社)が同社に対しTOBを実施、上場廃止となった。電子書籍販売サイト「ebookjapan」を運営し、スマートフォン、タブレット端末およびパソコン向けにマンガを中心とした電子書籍を販売。「bookfan」で紙の書籍のオンライン販売も行う。

株主構成

有価証券報告書によると上場廃止前、2021年9月末時点の大株主は、親会社のヤフー株式会社が43.37%で筆頭株主。NORTHERN TRUST CO.(AVFC) REHCROOが6.62%、日本マスタートラスト信託銀行の信託口が5.40%で続き、以降は保有割合5%未満で、国内外の信託銀行等の信託口、社外取締役、証券会社、株式会社小学館などが名を連ねる。外国人株式保有比率は10%以上20%未満

取締役会

2021年3月期の有価証券報告書によると、取締役は7名(社内5名、社外2名)、監査役は3名(社内1名、社外2名)、監査役会設置会社である。社内取締役は全員中途入社で、内5名は親会社のヤフー株式会社出身である

代表取締役の経歴

代表取締役社長 社長執行役員 最高経営責任者の高橋将峰氏は1974年11月生まれ。東京国際大学卒業後、2006年7月にヤフー株式会社入社。パーソナルサービスカンパニーゲーム本部本部長や、コマースカンパニー推進事業室デジタルコンテンツ事業本部本部長等を歴任後、2018年6月に当社取締役副社長 副社長執行役員 最高執行責任者に就任。2019年4月より現職を務める。
尚、同社の創業は2010年4月まで代表取締役を務めた鈴木雄介氏によるもので、同氏は株式会社小学館で1998年に通信衛星を利用した電子書籍の配信の実証実験「電子書籍コンソーシアム」のノウハウや人脈を活用し同社を設立し、代表取締役社長として10年間務めた後に辞任。以降はA.T.カーニーやボストンコンサルティングでの経歴を有す小出斉氏が代表取締役社長を務め、現在の高橋氏は3人目である。

報告セグメント

「電子書籍事業」、「クロスメディア事業」の2報告セグメントに大別される。2022年3月期第2四半期売上高16,419百万円の構成比でみると電子書籍事業76.7%、クロスメディア事業23.3%、セグメント利益の構成比は電子書籍事業84.8%、クロスメディア事業15.2%。

事業モデル

電子書籍事業は電子書籍販売サイト「ebookjapan」を運営しており、出版社等から配信許諾を受けた書籍を「ebookjapan」やパートナー企業を通じてエンドユーザー向けに電子書籍として販売する。なお、「ebookjapan」の運営は同社がアプリ等の企画・運営等を、ヤフー株式会社が集客・プロモーション等を担当し、利益、費用の按分を行っている。また出版社等へは配信許諾の対価として、許諾料を支払う。大手出版社では株式会社講談社、株式会社集英社、株式会社小学館と電子書籍許諾契約を結んでいる。

2021年第2四半期決算補足資料

クロスメディア事業では書籍取次業者から仕入れる紙の書籍をインターネット経由でオンライン販売しており、「bookfan」の名前でYahoo!ショッピング、PayPayモール、楽天市場、ポンパレモールなどのモールサイトに出店している。
なお、ヤフー株式会社やSBペイメントサービス株式会社宛に売掛金や未収入金が計上され業容拡大と主に金額が増加していることから、エンドユーザーへの販売代金は決済事業者を介して回収しており一定の時間を要するとみられる。大手出版社やトーハン(書籍取次)宛の買掛金も同様に増加している。
電子出版の市場規模は1桁後半での高い成長率での伸びが今後も見込まれる市場であるが、電子書籍販売サイトは複数存在し競争が激化している。各社、広告宣伝費の積極的な投下による認知度向上や、独自のコンテンツや海外HITタイトルの独占配信などで差別化を試みるが、他サービスとの連携や資本的背景をもつ大手との厳しい競争が展開されている。

2021年第2四半期決算補足資料

競合他社

電子書籍販売は最大手のKindleストア(Amazon提供)、ピッコマ(株式会社カカオジャパン提供)などの大手サイトやアプリまで複数の競合が存在する。次いでLINEマンガ(LDF社提供)とは、今後TOBされたことに伴う動きがみられると考えられる。上場企業では「Renta!」を運営する3641パピレス(2022年3月期売上高20,700百万円)、「めちゃコミック」を運営する4348インフォコム(同64,586百万円)などが挙げられる。

連結の範囲

TOBに伴い、LDF社傘下となった。但し、ヤフー株式会社は引き続き同社株を保有しているものとみられる。下図は2021年3月の資料。LDF社の出生元、LINE株式会社もヤフー株式会社と同様4689Zホールディングス傘下にある。

セルサイドアナリストおよび機関投資家向け説明会資料(Zホールディングス株式会社)

強み・弱み

ソフトバンクグループの一員として、Yahoo!やPayPayとの連携や会員特典などのマーケティング展開が図れることが強みであると同時に、LDF社を含むソフトバンクグループの事業方針、戦略の変更が生じた際は、同社業績に影響を及ぼす。また、電子書籍ビジネスは参入障壁が低く、販売競争が激化していることは懸念点

KPI

詳細が開示されていないが、次のようなものが考えられる
①電子書籍取扱い冊数(80万冊超)
②ebookjapanアプリのダウンロード数(Google Play上でDL数100万以上)
③bookfanモール各店のUUやARPA
④電子コミック推定販売額(市場規模)(2020年推計3,420億円、前年比+31.9%※公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所調べ)

業績

非上場化に伴い2022年3月期決算は非公表だが、第3四半期まで増収増益基調を維持していた。フリーCFは黒転した2017年3月期以降プラス維持。借入金は減少しているものの、自己資本比率は業容拡大による買掛金や売掛金などの増加を主因に60%前後から40%近辺まで低下している。※2018年3月期決算までは連結財務諸表を、以降は子会社売却により単体の財務諸表を参照

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