9978 文教堂の業績と事業再生ADRについて分析してみた

9978 文教堂の業績と事業再生ADRについて分析してみた

PERAGARU管理人

四半期業績推移随時更新中

(単位:百万円) 決算期 売上 営業利益 営業利益率
FY2024.Q1 2023.11 3,513 -63 -1.79%
FY2024.Q2 2024.02 4,129 94 2.28%
FY2024.Q3 2024.05 3,918 52 1.33%
FY2024.Q4 2024.08 3,365 -52 -1.55%
(単位:百万円) 決算期 売上 営業利益 営業利益率
FY2017.Q2 2017.02 7,935 123 1.55%
FY2017.Q3 2017.05 7,671 16 0.21%
FY2017.Q4 2017.08 7,178 27 0.38%
FY2018.Q1 2017.11 6,807 -109 -1.6%
FY2018.Q2 2018.02 7,332 30 0.41%
FY2018.Q3 2018.05 6,934 4 0.06%
FY2018.Q4 2018.08 6,315 -470 -7.44%
FY2019.Q1 2018.11 6,112 -186 -3.04%
FY2019.Q2 2019.02 6,591 -46 -0.7%
FY2019.Q3 2019.05 6,304 -119 -1.89%
FY2019.Q4 2019.08 5,381 -146 -2.71%
FY2020.Q1 2019.11 5,322 60 1.13%
FY2020.Q2 2020.02 5,685 157 2.76%
FY2020.Q3 2020.05 5,621 125 2.22%
FY2020.Q4 2020.08 4,676 72 1.54%
FY2021.Q1 2020.11 4,505 42 0.93%
FY2021.Q2 2021.02 5,338 176 3.3%
FY2021.Q3 2021.05 4,843 85 1.76%
FY2021.Q4 2021.08 4,096 62 1.51%
FY2022.Q1 2021.11 3,988 -46 -1.15%
FY2022.Q2 2022.02 4,423 51 1.15%
FY2022.Q3 2022.05 4,342 39 0.9%
FY2022.Q4 2022.08 3,733 8 0.21%
FY2023.Q1 2022.11 3,670 -41 -1.12%
FY2023.Q2 2023.02 4,308 82 1.9%
FY2023.Q3 2023.05 4,027 24 0.6%
FY2023.Q4 2023.08 3,465 8 0.23%
FY2024.Q1 2023.11 3,513 -63 -1.79%
FY2024.Q2 2024.02 4,129 94 2.28%
FY2024.Q3 2024.05 3,918 52 1.33%
FY2024.Q4 2024.08 3,365 -52 -1.55%

文教堂ホールディングスの事業概要

同社は1949年に書籍・雑誌の販売を目的として神奈川県川崎市において株式会社島崎文文教堂として設立された。1993年には商号を株式会社文教堂に変更し、2004年にジャスダックへ上場、2008年には純粋持ち株会社へ移行し株式会社文教堂グループホールディングスと新設した100%子会社株式会社文教堂に分割し、書籍・雑誌等の販売事業は株式会社文教堂に承継した。
同社の報告セグメントは「販売業」と「販売受託業」としているが、「販売受託業」の割合は僅少であるため、セグメント情報の記載は省略しており、書籍・雑誌の仕入、販売を行ういわゆる書店業が同社の主な事業となっている。
連結子会社は、同社の売上の約90%を占め主要な子会社である書籍・雑誌等の小売業を営む株式会社文教堂、書籍・雑誌等の通信販売業を行うジェイブックス株式会社、図書カード等の小売業を営む文教堂サービスを連結子会社としている。なお、同社は業務効率化のため組織再編を進めており、従来子会社としていた株式会社ブックストア談と有限会社シマザキについては2019年5月に、株式会社文教堂ホビーについては2019年12月に株式会社文教堂に吸収合併している。

書店業

同社においては、大部分は書店等における書籍・雑誌等の販売業である。中でも、同社の書籍の販売が同社の売上の約38%、雑誌が約30%を占めており、文具が10%、CDやホビー、図書カード等その他の販売が16%程度である。また、同社とフランチャイズ契約を契約するフランチャイジーに対して書籍・雑誌等の卸売も行っているが、売上全体の約5%程度となっている。
同社の属する書籍・雑誌等の小売りを行う書店業を営む上場会社としては、「蔦屋書店」を展開する株式会社トップカルチャー<7640>や、丸善ジュンク堂書店を展開する丸善ICHIホールディングス株式会社<3159>、三洋堂書店を展開する、株式会社三洋堂ホールディングス<3058>等が挙げられる。上場会社ではないものの紀伊国屋書店も書店売上ランキングでは上位にいる。
昨今においては、「若者の活字離れ」という言葉にも現れているように、年々紙媒体の雑誌・書籍の売れ行きが減少してきている。1996年の最盛期においては書籍が約1兆1千億円、雑誌が約1兆5千億円の合計約2兆6千億円の書籍販売の市場があったと推定されていたが、ネット通販やインターネットやスマートフォン等によるデジタルコンテンツの普及に伴い、2017年時点においては書籍が約7千億円、雑誌が約6千億円の合計約1兆3千億円と推定されており、50%も落ち込んでいる。当該市場の縮小により年々書店の閉店も相次いでおり、厳しい業界となっている。

出版業界のサプライチェーン

同社のビジネスを理解する上では、まず出版業界のサプライチェーンを理解することが必要である。書籍や雑誌の制作から消費者へ渡る主な流れとしては、講談社や集英社や小学館、上場企業では株式会社KADOKAWA<9468>や株式会社ゼンリン<9474>といった「出版社」制作を行い、大日本印刷株式会社<7912>(以下、大日本印刷)や凸版印刷株式会社<7911>といった印刷会社において印刷され、日本出版販売株式会社(以下、日本出版)や株式会社トーハン(以下、トーハン)といった「出版取次業」が流通機能を担い、「書店」において商品を並べて消費者に販売を行っている。同社の連結子会社であり、書店業を営む株式会社文教堂においては、「出版取次業者」である日本出版と取引基本契約及び再販売価格維持契約を締結しており、商品の仕入れの約70%を日本出版から仕入れている。なお、日本出版が出版業者と締結した契約に基づき、出版業者の指定する定価を厳守し、書籍の割引ができないこととなっている。
また、書店において販売される書籍や雑誌等の販売価格のうち、書店における利益率は20%程度といわれており、同社における粗利率も約24%となっている。

経営不振と事業再生ADRの成立

前述の通り、書店業界は非常に厳しい状況にあり、同社も毎期経常赤字を計上し続け、長年経営不振に苦しんでいる。2008年には出版取次業のトーハンが、2010年には大日本印刷が第三者割当増資を引き受けることにより資本を増強したものの、2018年8月期においてはついに債務超過に陥り2018年11月には上場廃止にかかる猶予入り銘柄となった。上場廃止にかかる猶予入り銘柄となったため、翌期である2019年8月期においても債務超過が解消されない場合においては上場廃止となる見込みであったが、2019年6月において同社は事業再生ADR手続きの申請をし、同手続きにより2020年8月31日までに債務超過が解消する計画とした。当該申請が受理されたことにより、上場廃止の猶予期間が2020年8月31日まで延長されている状態である。
事業再生ADR手続きとは、経済産業大臣の認定を受けた公正・中立な第三者が関与することにより、過大な債務を負った事業者が法的整理手続によらずに債権者の協力を得ながら事業再生を図る手続きである。同社における事業再生ADR手続きは2019年9月に成立し、当該手続きにおける再生計画の一環として、取引金融機関からの借入金債務の一部となる4,160百万円の株式化と、取引金融機関からの借入金債務の返済期限の延長を行ったほか、日本出版からの500百万円の出資により資本の増強を図った。これにより現在においては同社の債務超過は解消しているが、当該債務超過か解消したかどうかの判断は同社の決算期末である2020年8月期における決算内容において判断されるため、現在においても上場廃止にかかる猶予入り銘柄の状態が継続している。

文教堂ホールディングスの財務状況と経営指標

同社の財務状況を理解するためには、まず2019年8月期の年度決算における状況を理解する必要がある。2019年8月期の年度決算においては総資産は前期末比較で9,053百万円減少の11,960百万円となった。総資産の主な減少要因は、不採算事業・店舗の撤退に伴うたな卸資産の評価の見直しによる商品評価損4,118百万円経常等の影響による商品の5,901百万円減少、直営59店舗の減損損失775百万円や除却損165百万円の計上、減価償却の進捗に伴う固定資産の減少2,483百万円が主な要因となっている。純資産は3,983百万円減少のマイナス4,216百万円となっており、これは主に事業構造改革費用として商品評価損等を含め4,772百万円を計上し、3,981百万円の当期純損失を計上したことが主な要因である。これらのことからわかるように、2019年8月期においては、本業における営業損失に加えて、事業構造改革費用や減損損失等を計上し、収益性のない資産について積極的に損失を計上し膿を出し切ったように伺える。
今度は事業再生計画に基づいて、事業構造改革に取り組んだ直近決算である2020年8月期第三四半期(2020年5月)の財務状況を検討する。総資産は対前期末比で646百万円増の12,603百万円となっており、主な増減要因は現金及び預金が1,706百万円増えた一方、商品が768百万円減少していることが主な要因となっている。純資産は4,990百万円増加の774百万円となり、債務超過が解消している。主な増加要因は、金融機関への借入金債務4,160百万円の株式化と日本出版からの500百万円、四半期純利益330百万円計上によるものである。
財務の健全性を示す自己資本比率は6.1%と低いものの債務超過は解消されており、同社の短期的な支払能力を示す流動比率も前期末時点では161%と100%を超えており1年以内に支払い不能になる可能性が高いとみられる水準であったものが、同四半期末においては借入金債務の株式化や、返済期限の延長に伴い88%まで低下し特段問題のない水準になっている。
収益性についても、エリアマネージャー制度の導入や、不採算事業の売却、不採算店舗の閉店、高収益商品の導入等により、粗利率は対前年同四半期比で1.4ポイント上昇の26.0%となったことや、販売費および一般管理費も対前年同期比で1,033百万円減少させたこと等により、当四半期末においては342百万円の営業黒字を計上している。当該営業黒字になった背景としては、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う巣ごもり消費として書籍の売上が増加したことや、集英社から出版されアニメ化で爆発的な人気となった漫画「鬼滅の刃」のまとめ買い等によりコミックスの売上が増加したことも追い風になったとようである。また、借入金債務の株式化株式化に伴い支払利息が73百万円減少し、経常利益も729百万円増加となっており、収益性は大幅に改善している。

文教堂ホールディングスの優先株式について

同社への投資を検討するにあたって、同社の発行しているA~K種類株式、いわゆる優先株式について理解をする必要がある。A~J種類株式については、2008年には出版取次業のトーハンが第三者割当増資を引き受けた際に発行された優先株式であり、K種類株式は前述した事業再生ADR手続きの一環として借入金債務が株式化されたもの及び日本出版からの500百万円の出資である。

文教堂ホールディングスの優先配当について

当該種類株式においては、普通株式の株主に優先して配当を受ける権利を有することから優先株と呼ばれており、A~J種類株式については払込金額合計700百万円に6ヶ月物の日本円Tibor+0.5%を毎年優先的に配当を受ける権利を有していた。当該優先配当は利益が発生しないかった年度における優先配当は繰越され累積されており2019年8月期時点では累積未払配当が67百万円ある。
2020年8月期における優先配当を計算すると、K種類株式においては払込金額0.1%を乗じた金額が優先配当となっており、A~J株式においても同様に優先配当率は払込金額の0.1%へと変更になったことから、A~K株式の払込金額総額に0.1%を乗じた金額が毎年の優先配当金額となる。一部株式取得請求権が行使され普通株式となったものを除外すると、現時点におけるA~K株式の払込金額総額は4,360百万円であり、0.1%を乗じた43百万円が優先配当となると考えられる。つまり、2020年8月期においては、これまでの累積未払配当67百万円と当期の優先配当43百万円の合計である110百万円が優先株主に帰属することなり、普通株主に帰属する利益は当期純利益のうち110万円を超えた部分となり、翌期以降においては当期純利益のうち43百万円を超えた部分となり、これらの優先配当は連結損益計算書へは反映されず、普通株主に対する配当金と同様に利益剰余金を減少させるたけである点に留意が必要である。
これらの優先配当により、普通株主に帰属する利益は減少するわけであるが、優先配当の料率は年間0.1%と低く設定されており、返済期限が無いことを鑑みると当該優先株式により借入金債務を返済及び資金調達できたことは普通株主にとって大きなメリットと考えらえれる。

文教堂ホールディングスの優先株式の取得請求権について

当該優先株式についてもう一点理解しておくべき事項は、普通株式を対価とする取得請求権である。当該優先株式を保有する株主は、優先株式と引き換えに払込金額相当額を取得価額(128円)で除して得られる数の普通株式を取得できることとなっている。現在の同社の株価は160~170円台であることから、同種類株式の株主は有利な価格で普通株式を取得できることとなる。
また、2019年8月期末における普通株式の発行済株式総数は14百万株であるが、当該優先株式の取得請求権がすべて行使されると、41百万株もの普通株式が追加発行されることになることから、規模が大きいことがわかる。なお、同社は各種類株主は種類株式を中期的に保有する方針であり、取得請求権についても株価を考慮して小規模に行われるとの見込みを示しており、当該株式が譲渡される可能性についても、譲渡による取得の際は同社の取締役会の承認が必要であることから、短期的利益のみを追求するような投資家に譲渡される可能性も高くはないと考えられた。
そんな中、2020年3月において、株式会社三井住友銀行(以下、三井住友銀行)が保有していたK種類株式100株(払込価額相当額1,000百万円)を289百万円でファンドとみられる株式会社NBキャピタル(以下、NBキャピタル)に譲渡しており、NBキャピタルは同年7月にすべての取得請求権を行使して、7.8百万株の普通株式を取得しており、現在の発行済み株式総数の35%を保有している。この際の同社の普通株式の取得価格を計算すると37円程度となり、非常に低い価格で譲渡されたことがわかる。おそらく、三井住友銀行は種類株式における資金の回収には時間がかかると考え、早期に投資の回収を図るためにこのような低い価格で優先株式を譲渡したものと考えらえられるが、実際のところがどういう経緯だったのかは気になるところである。
なお、同社の提出した大量保有報告書を見ると、保有目的が純投資となっており短期的に売却される可能性がある点が懸念事項と考えらえれる。とはいえ、文教堂ホールディングスの1日の出来高は少ない為短期で売抜けることは非常に困難であり、株価を急落させないようにしながら売却活動を行うものと考えられる。なお、同社は2020年8月26日に保有株式に発行済株式総数の1%以上の変動があったことにより変更報告書を提出しており、8月19日までに223,500株を売却していることが明らかになっており、当該売却活動が文教堂ホールディングスの株価上昇の妨げになっていることは間違いないであろう。今後も、発行済株式総数の1%以上の変動があった際には変更報告書を提出義務があるため、変更報告書を確認し、同社の売却状況を確認する必要があるであろう。

文教堂ホールディングスのカタリスト

同社におけるカタリストとしては、2020年8月期年度業績の上方修正、上場廃止にかかる猶予入り銘柄からの指定解除、ノーベル文学賞の日本人作家受賞が考えられる。
まずは上方修正の可能性についてであるが、同社は2020年4月において2020年8月期第2四半期(2020年2月)決算について上方修正を行っており、四半期純利益をマイナス17百万円から195百万円プラスの178百万円へ上方修正している。一方で、通期業績予想については新型コロナウイルスの感染拡大による営業時間の短縮、臨時休業の影響が読めないとして、年間の当期純利益を113百万円で据え置いている。同社の第3四半期決算における四半期純利益は330百万円あり、上方修正がなかったことを鑑みると、2020年6月~8月の業績が大幅に悪化しない限り期末決算時点において通期業績予測の上方修正が出される可能性は高いのではないかと考えられる。
また、同社においては前述の通り既に債務超過から脱しているものの上場廃止にかかる猶予入り銘柄に指定されている。しかし、2020年8月期の年度決算が公表され、年度末において債務超過でないことにより上場廃止にかかる猶予入り銘柄からの指定解除がされると見込まれ、同社は9月1日は債務超過解消(見込み)のお知らせを公表している。当該指定解除は同社の決算書や適時開示により、既に明らかになっていた事実とも言えるため、必ずしも株価に影響を与えるものではないが、直近では株式会社中村超硬<6166>や株式会社フルッタフルッタ<2586>等が当該正式な指定解除をきっかけに株価が急騰したことを鑑みると、同社も指定解除に伴い注目を集める可能性が期待できる。
最後にノーベル文学賞の日本人作家受賞についてであるが、同社は従来ノーベル文学賞関連銘柄として知られ、日本の有名な作家である「村上春樹」氏のノーベル文学賞受賞の期待とともに物色されてきた銘柄である。同氏が受賞たことにより関連書籍の売り上げが伸びると考えられたためである。2018年においてノーベル賞の受賞者発表を2019年に先送りするとの報道があった際には同社の株価大幅下落したことからも、ノーベル賞と同社の株価との関連性が示されていると考えられる。2020年においては新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止となるリスクもあるが、今年も従来通り発表があるとすると、10月上旬のノーベル文学賞発表に向けて同社は注目を集めることになるであろう。
上記のことから、短期的にはNBキャピタルの同社株式の保有方針については懸念があるものの、10月上旬ノーベル文学賞発表や10月中旬の同社の決算発表等があることを鑑みると、同社は9月~10月においてひと相場ありそうな銘柄であるとの期待感を持てる銘柄であると考える。
また、長期的には、NBキャピタルの株式売却完了がカタリストとなるであろう。現時点において、NBキャピタルの保有する株式は発行済み株式の約35%もあり、日々売却活動を行っていることから、同社の株価上昇の障害となっているものと思われる。債務超過解消(見込み)のお知らせを公表した際も出来高を伴い一時上昇したものの、株価はすぐに戻ってしまっており、NBキャピタルの株式売却が影響を与えている可能性は高い。今後も、決算発表やノーベル文学賞期待、上場廃止猶予銘柄からの正式な指定解除等、注目を集め出来高が急増し、NBキャピタルが保有する株式を大量に売却できる場面が多くあると考えられることから、NBキャピタルの株式売却が完了もそう遠くは無いかもしれない。当該売却活動が完了し、他の優先株式を保有する株主が株式取得請求権を行使しなければ、長期的な株価上昇も期待できると考えられる。

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