テックポイントのTOB中止の可能性とリスク要因
テックポイントのTOB中止の可能性とリスク要因をまとめてみました。
1. 規制当局の審査
本件買収の成立には各国当局の承認が必要であり、主要なリスク要因となります。特に、米国の対米外国投資委員会(CFIUS)による国家安全保障上の審査が必須であり、さらに日米の関連規制当局の承認、各国の独占禁止法(競争法)審査、および台湾当局の対外投資許可も必要とされています。
テックポイントは米国法人で日本上場という特殊な立場のため、米国および日本双方の規制当局の許認可を得る必要があると説明されています。万が一、これらの承認が得られなかった場合や、当局から買収禁止の命令が出された場合、TOB中止(合併契約の解除)となるリスクがあります。
契約上、特定の規制上の不承認により取引が中止となった場合には、ASMediaが約1,200万ドルの違約金(契約解除料)を支払う規定が盛り込まれています。これは、規制要因による中止リスクが一定程度想定されていることを示唆しています。
2. 競合の買収提案
合併契約には「優位提案」があった場合のフィデュシャリー・アウト条項(取締役会が受け入れる権限)と違約金条項が含まれています。これにより、他社がより高い提案を行った場合、テックポイントは契約を解除してその提案を受け入れる余地があります。
具体的には、取締役会が契約を終了させてでも受け入れる価値のある競合買収案が出た場合、テックポイント側がASMediaに約752万ドルの契約解除料(ブレークアップ費用)を支払えば、提案を受諾できます。
そのため、第三者による対抗的なTOB提案や買収案が出た場合には、本TOBが中止され、別の買収に切り替わる可能性があります。しかし、現時点では競合他社からのオファー情報はなく、テックポイント経営陣も本件に合意していること、さらに違約金条項が一定の抑止力となることから、競合提案による中止リスクは大きくないと考えられます。
3. 資金調達の問題
買付者であるASMediaは、買収資金を手元現金で賄う予定であり、外部からの借入などの資金調達リスクは低いと公表しています。そのため、市場環境の変化による調達難や金利上昇の影響は限定的です。
また、ASMediaは親会社(ASUS)傘下で業績も好調であり、資金面の信頼性は高いとみられます。そのため、よほどの業績悪化や金融市場の急激な悪化が起こらない限り、資金不足を理由にTOBが中止されるリスクは低いでしょう。
4. その他の市場環境要因
契約期間の長期化や予期せぬ外的要因もリスクになり得ます。本合併には最終期限が設定されており、2025年10月15日(延長時は2026年1月15日)までに合併の効力が発生しなかった場合、双方が合併契約を解除できる取り決めとなっています。
主要国の審査が長引いたり、承認条件の調整に時間を要した場合、手続き延長によりスケジュール遅延・中止の可能性が生じるリスクがあります。このリスクを踏まえ、契約にはタイムアウト条項と違約金の取り決めが置かれています。
また、為替変動も影響要因となります。買収対価は米ドル建て20ドルであるため、円高・円安の進行次第で日本の株主が受け取る円貨額が変動します。たとえば、円高が進めば1JDR当たり3,041円より目減りする可能性があります。これはTOB自体の中止要因ではありませんが、市場価格が提示価格を下回って推移している一因として、為替変動リスクが意識されている可能性があります。
5. TOB中止リスクの確率
現状、本TOBが中止に至るリスク(確率)はさほど高くないと見られています。
- 発表後の株価動向を見ると、テックポイント株は提示価格に迫る水準まで急騰し、現在も2,600円台で取引されています。提示額3,041円に対し約10~15%低い水準に留まっているため、規制承認などの不確実性を織り込んだものの、大半の投資家が最終的な成立を有力視していることが示唆されます。
- 経営陣・取締役会が合併を支持し、株主に推奨していること、提示プレミアムが非常に高く株主の利益に適うため、株主承認が得られない可能性は極めて低いと考えられます。
また、規制当局の審査については、対象事業が自動車向け映像半導体などに限定的であり、国家安全保障上の懸念も小さいと考えられるため、大型ハイテクM&Aで見られるような深刻な障害は想定しにくいとの意見もあります。
実際、本件は両社取締役会の満場一致承認を得ており、2025年第二四半期から第三四半期初頭に取引完了見込みと公式に発表されています。
以上を踏まえ、マーケットや専門家の見立てでは、TOB不成立(中止)となる確率は低く、おおよそ1~2割程度(成立確率80~90%程度)と考えられます。ただし、最終決定権は各国規制当局にあり、CFIUSなどの審査結果次第では一定の不確実性が残る点には留意が必要です。