創業と1980年代: 金融情報サービスの草創期
1981年: 前年にソロモン・ブラザーズを退社したマイケル・ブルームバーグが、退職金1,000万ドルを元手に金融情報サービス会社「Innovative Market Systems (IMS)」を設立。当初のビジネスモデルは、ウォール街の証券会社向けにリアルタイムの市場データと分析ツールを提供することだった。
1982年: 専用端末「マーケットマスター」(後のブルームバーグ端末)を発売し、リアルタイムの金融データ配信サービスを開始。メリルリンチが初期投資家兼顧客となり、端末20台の導入と引き換えに3,000万ドルを出資、株式の30%を取得し、5年間他社への販売を控える契約を締結。
1984年: メリルリンチとの独占契約が解除され、他の金融機関への端末提供が可能に。これにより顧客基盤の拡大が加速。
1986年: IMSは社名を「ブルームバーグ L.P.(有限責任事業組合)」に改称。
1987年: 初の海外拠点として日本法人(東京オフィス)を開設。ブルームバーグにとってアジア初の拠点となり、日本市場へのサービス提供を開始。
ブルームバーグ端末(Bloomberg Terminal)について:
1980年代に登場したこの端末は、マーケット情報と分析機能を一体化して提供し、ウォール街に情報革命をもたらした。専用キーボードを備えたシステムは急速に普及し、金融プロフェッショナルに広く利用されるようになった。
1990年代: メディア事業への進出とサービス拡充
- 1990年: 自社の報道部門「ブルームバーグ・ビジネスニュース」を立ち上げ、元WSJ記者のマシュー・ウィンクラーを編集長に迎え、金融ニュース配信を開始。速報ニュースの提供により、データ提供と報道を組み合わせたサービス展開を実現。
- 1992年: ニューヨークのラジオ局WNEWを1,350万ドルで買収し、24時間金融ニュース専門局「ブルームバーグ・ラジオ(WBBR)」として開局。ラジオ放送でリアルタイムニュースの提供を拡大。
- 1993年: ウェブサイト「Bloomberg.com」を開設。市場情報、ニュース、為替レート、イベント情報などを提供する金融ポータルサイトとしてサービス開始。
- 1994年: ビジネスと金融に特化したテレビ局「ブルームバーグテレビジョン」を開局。米国で衛星経由の有料放送を開始し、その後ケーブルテレビ網にも拡大。
- 1996年: 電子取引プラットフォーム「ブルームバーグ・トレードブック」を設立。株式・債券・為替などの電子取引サービスに参入。また、メリルリンチ保有株の一部をブルームバーグ社が2億ドルで買い戻し、企業価値は約20億ドルと評価された。
1990年代後半: 端末契約数の増加に伴い、報道体制も強化。2000年時点でブルームバーグニュースの編集記者は世界100か国で2,300名以上に達し、金融情報専門メディアとしての存在感を確立した。
2000年代: 多角化とグローバル成長
- 2001年: 創業者マイケル・ブルームバーグがニューヨーク市長選に出馬するためCEO職を退き、後任にレックス・フェンウィックが就任(2001–2008年在任)。創業者不在でも事業は順調に拡大。
- 2008年: 世界金融危機下、メリルリンチが経営難に陥り、ブルームバーグ株20%を売却。ブルームバーグ側が約44億3千万ドルで買い戻し、企業評価額は約225億ドルに跳ね上がり、創業者グループによる完全所有体制に復帰。
- 2009年: 経営多角化の一環として、経営不振に陥っていた週刊経済誌『ビジネスウィーク』をマグロウヒル社から買収(買収後『ブルームバーグ・ビジネスウィーク』と改称)。また、イギリスのクリーンエネルギー研究会社「ニュー・エナジー・ファイナンス」を買収し、再生可能エネルギー・カーボン市場のデータサービスに進出。
- 2010年: 2001年からの10年間で売上が約3倍に増加。年間収益は推定70億ドルに達し、主力のブルームバーグ・プロフェッショナルが売上の85%以上を占め、年間利用料は約2万4千ドルに設定された。
- 2011年: 米バージニア州の法律・規制情報会社「ビューロー・オブ・ナショナルアフェアーズ (BNA)」を約9億9千万ドルで買収。これにより、政府向け・法律情報サービス(ブルームバーグ・ガバメントやブルームバーグ・ロー)を強化。
- 2012年: アイルランド拠点のソフトウェア企業「ポーラー・レイク」を買収し、新たにエンタープライズ向けデータ管理サービス(企業内データの統合・配信サービス)を開始。金融情報に加え、企業向けソリューション分野にも進出。
- 2014年: 当時社長兼CEOのダニエル・ドクトロフ(2008–2014年在任)が退任し、創業者マイケル・ブルームバーグがCEOに復帰。約13年ぶりの現場復帰となり、2010年代後半まで自ら経営を指揮。
- 2015年: 英バークレイズ銀行から指数計算・分析部門(BRAIS)を約5億2千万ポンドで買収。これにより、株式指数や債券指数の提供ビジネス(現在のBloomberg Index Services)に参入し、データ提供の幅を拡大。
2010年代後半: 新興分野やメディア事業でも動きがあり、2019年には米The Atlanticから都市問題ニュースサイト「CityLab」を買収。また、規制報告ソフト企業RegTek.Solutionsの買収を通じ、端末以外のソフトウェアサービスの拡充に取り組んだ。
2020年代: 最新動向と競争環境・展望
- 2022年: 英国向けのニュース提供強化策として「Bloomberg UK」を立ち上げ。ロンドン発のスタンドアロンニュースサイト、週刊動画シリーズ、ポッドキャスト番組などを開始し、地域市場向けのコンテンツ戦略を推進。
- 2023年(8月): 経営体制の刷新を発表。製品部門責任者ウラジミル・クリアチコが新CEOに、COOのジャン=ポール・ザミットが社長に就任。取締役会議長には元英中央銀行総裁マーク・カーニーが就任し、創業者マイケル・ブルームバーグは会長職(名誉職)に退く。
- 2023年(3月): 高速取引ソリューション企業「ブロードウェイ・テクノロジー」を買収する契約を締結。固定収益(債券)電子取引技術の強化と、金融市場インフラ分野への投資拡大を目的とする。
- 2024年: 日本国内でTBSテレビと5年間の戦略的パートナーシップ契約を締結。6月からTBSのニュースサイト「TBS NEWS DIG」を通じ、ブルームバーグの記事配信を開始。国内メディアとの連携により、経済・金融ニュースの発信力が強化された。
現在(2020年代半ば)の状況
- グローバル展開: 世界176か所以上に拠点を構え、従業員数は約2万人規模に。
- 端末シェア: 金融情報端末は世界で約32万台が稼働し、金融情報サービス市場の約3割強を占める。
- 競合状況: 最大の競合はロイター系のRefinitivで、市場シェアは約20%程度。
- 今後の展望: 高度なデータ分析や新分野(例:サステナビリティ、オルタナティブデータ)に注力し、金融市場の透明性向上とプロフェッショナルの意思決定支援を推進する見通し。